赤穂浪士 9月 24, 2026 2段組800ページに及ぶ大部だったが、一気に読破できたのは、あまりにも人口に膾炙した物語だというだけでなく、作者らしい視点の鮮やかさだろう。元禄時代に頽廃しつつある武士道に、一方は義挙を通して反撃を鳴らし、市井や浪々の境涯に生きる者には寧ろ虚しさをもたらす。改めて現代の視点でも跡を辿る価値のある史実に違いない。(564/1000) 続きを読む
ベトナム戦記 9月 15, 2026 NHKの放送で開高健のベトナム体験が紹介されたのを受けて、「輝ける闇」とこの本を借り受けた。前者を3分の2ほど読んだところで、すでに読んでいたことに気づいてまた細君に笑われた。後者のこの本は毎日出版文化賞をとった前者に比べて、ルポルタージュとしての迫真さは強烈だ。戦争の無意味さを改めて知ることのできる作品だ。(563/1000) 続きを読む
菊と刀 9月 03, 2026 菊と刀というからには、菊は天皇を、刀は戦前日本人の武士の魂を象徴するタイトルに依拠する内容かと思いきやそうではなかった。菊に輪をはめ自由な生長を矯める栽培方法を日本人の「恥、義理、義務」に擬える。刀は「身から出た錆」という諺通りに、日本人が「自ら責任を取る」という信念で敗戦を受け止めることを喩える。日本人に特有の国民性をよく理解できる名作であった。(562/1000) 続きを読む
氷川清話 勝海舟の政治観と幕末維新の裏面史 8月 26, 2026 勝海舟自身による原書は図書館になく、高野澄版の解説書で我慢した。解説者による偏見のせいなのか、文章構成の寸断のせいなのか読後感は充実感に乏しい。ただ言えるのは、勝以降、この国に彼や西郷隆盛のような腹の座った大局観を持てる大人物は現れなかったということか。(561/1000) 続きを読む
日本人とユダヤ人 8月 15, 2026 すでに絶版となっているのか、図書館はもちろんネットでも手に入れられなかったかつての名著を、高校教師を定年退職したばかりの嫁の父親から譲り受けることができた。イスラエルとガザ、アラブ諸国との対立の構図がどうにも理解できなかったのが、本書でユダヤ教、キリスト教の相違を知ることで、多少なりとも理解が進んだ気がする。(560/1000) 続きを読む
親鸞 (上)(下) 8月 08, 2026 教行信証に触発されて五木寛之版の上下巻を手に取った。新聞に連載されていた頃には読む余裕がなかったせいか、今読んでみる方が相応しいと思えるのも奇妙だ。十悪五逆を犯したものは念仏を唱えても浄土へは行かないとする無量寿経から、他力によってそういう人々も救われると解する涅槃経へと法然の思想を止揚させる親鸞。その辺りの事情はこの上下巻には著されていない。(559/1000) 続きを読む
「教行信証」を読む 7月 31, 2026 親鸞が著した「教行信証」(岩波文庫版)を原文で読んでみようと挑んだが、仮名交じりの漢文ではとても読解不能で、本書となった。教、行、信、証、真仏土、化身土の六部で、師である法然の説いた念仏では救われない悪業の徒の救済について探究する。自力修行から自力念仏、他力念仏へと進むプロセス。その方法論を多少は楽しめた気がする。(558/1000) 続きを読む
欺す衆生 7月 26, 2026 豊田商事の詐欺事件を題材に、その残党がその後もいかにしてさまざまな詐欺にかかわり、裏社会の連中や政治家等と結びついてきたのかを告発する物語だ。結末は当然自滅だろうと思いきや、あらゆる難局を切り抜けて「人生そのものが詐欺のようなものだ」と読者に思わせる。人が人を欺し、組織が社員を、国が国民を欺す。昨今の政局を見るようだ。(557/1000) 続きを読む
重力ピエロ 7月 18, 2026 いったい物語はどこへ向かうのかと思いながら読み進む。短い章立てがくるくるとストーリーを展開させ飽きさせないが、逆に方向性が掴みきれないという新たな手法かもしれないと思い直す。遺伝子のメカニズムやガンジーを始めとする偉人の名言に囲まれながら、物語はラストシーンを迎える。まさに無重力感を味わえる作品かもしれない。(556/1000) 続きを読む
戦場のベーカリー 7月 11, 2026 翻訳ものは、原作は素晴らしくても、日本語との親和性がないためか、翻訳者が原文に束縛されすぎるのか、実に読みにくい。それでもウクライナの現状と、流浪と征服の被害者であり続けた民族の逞しい思想は読み取れた。日本が同じ立場になったとしたら、と思うと今からでも少しは学んでおくべき食の思想がここにある。(555/1000) 続きを読む
法華経 (上) 7月 05, 2026 宮沢賢治が信奉して著したという「国訳妙法蓮華経」は手に入らないので、岩波文庫版の「上」だけを覗いてみた。漢文の経典はさぞ読みにくかろうと思いきや、丁寧な口語訳が左辺に付されていて、意外にすらすらと読めたのが意外であった。機会があれば中、下も手にしてみてもいい。(554/1000) 続きを読む
天路の旅人 (上)(下) 7月 03, 2026 戦前から敗戦後まで約7年にわたって中国大陸から、モンゴル、チベット、ネパール、インドまで密偵として旅をした西川一三の物語だ。あまりにも過酷な、それでいて柔軟かつ変幻自在な適応力をもって難局を乗り切る人間ドラマは感動的だ。旅を愛する沢木耕太郎だから辿れた男の旅路だ。(553/1000) 続きを読む
深夜特急1 6月 26, 2026 沢木耕太郎の「深夜特急シリーズ」の第1巻だ。「旅する力」でその動機やおおよその行程は把握できていたつもりだったが、実際の香港、マカオの道中は実に面白く読める。26歳にしてこんな破茶滅茶な一人旅がよくできたものとだと、10歳年上の先輩作家に敬意を表したくなる。(552/1000) 続きを読む
あん 6月 22, 2026 ハンセン病についてテレビで改めて問題意識をもって手に取ったのだが、読み出してからそういえば映画化されたこの作品を観ていたことを思い出した。映画の細部は忘れていたが、小説として文字を辿ることで、差別の残酷さと生命の意味について思い至ることができたような気がする。(551/1000) 続きを読む
テロルの決算 6月 19, 2026 社会党委員長浅沼稲次郎と彼を刺殺した17歳の山口ニ矢(おとや)の両名を追ったドキュメントだ。それぞれの人生を丹念に辿ってくれているので、時代背景とともに、なぜこのような悲劇がもたらされたのかがよく理解できる。思想とは?信念とは?人が人として生きることの難しさを感じざるを得ない。(550/1000) 続きを読む
線量計と奥の細道 6月 14, 2026 ドリアンさんの「くさい」奥の細道分析などと侮ってはいけない。自ら愛車「メグ号」(折り畳み自転車)を操り、時には友人たちの車にも助けられながら、東日本大震災で放射能汚染を見舞われた福島や宮城をはじめ、芭蕉の辿った奥の細道コースを線量計で計測しながら踏破する。忘れてはいけないあの悲劇、そして原発問題。アメリカとイランの交渉の行方も過ぎる。(549/1000) 続きを読む
深夜特急ノート 旅する力 6月 08, 2026 思えば自分も若い頃、作者ほどではないにしろ国内の遠い地へ一人で旅をしたものだ。「旅には適齢期がある」「自分に不足しているものを知る機会になる」「旅は作るものだ」といった至言がスタンと腑に落ちるのもそういう経験が少しはあったからだろう。古稀を迎える歳になって今更ひとり旅などできないが、そういう気概だけは保ちたいと思わせてくれる一冊だ。(548/1000) 続きを読む
寂しさから290円儲ける方法 6月 05, 2026 ドリアン助川というのは、明川哲也という本名にもかかわらず、書いた詩を「君の詩はくさい」と言われたためだそうだ。岩崎宏美の「許さない」、太田裕美の「道」、ブレッド&バターの「ペガサス」を作詞している。聴いてみると確かにちょっと「くさい」かもしれない。ラジオのパーソナリティの縁でか「人生相談の仕事」しかこなくなったという来歴を知って読むと面白い。(547/1000) 続きを読む
春かずら 5月 18, 2026 読書評を目にして手にした一冊だったが、400ページを超えたあたりからやや冗長すぎる結末のくだりが面倒だった。随所に人生の教訓を読み取らせてくれる一方、作者ならではか女性の描き方に違和感があるのはやむを得ないかもしれない。なかなか良書に巡り会えないと感じるのは、重ねた年齢のせいか?(546/1000) 続きを読む
マテニ10号 (上)(下) 4月 27, 2026 北朝鮮を『地上の楽園』と偽装して、何人もの在日コリアンを不幸な国の犠牲にした物語を読んだ後だけだけに、戦前の日本統治下で虐げられた三代にわたる鉄道員一族の話も無知なるが故に強烈な読後感を残してくれた。作者は異なるが、こうした一連の作品が読み繋がれることが、今日尚繰り返される民族の争いや偏狭な対立に一石を投じてくれないものだろうか。(545/1000) 続きを読む