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4月, 2024の投稿を表示しています

火山に馳す

田沼意次の時代に発生した浅間山大噴火。1500人以上の犠牲者を出し、天明の大飢饉の一因になったとも言われている。昭和54年の発掘で、寺の石段下が掘り起こされ、現れた35段の中に老婆を背負った嫁らしき女性の骨が見つかったという。内閣府防災ページにも紹介されているが、災厄に対する役人の向き合い方が問われる作品である。(418/1000)

東京都同情塔

さすが芥川賞作家。犯罪者を「同情される人々」という観点で再定義して建設された東京都同情塔。その建築思想とシンクロしながら、女性建築家自身を建築物として捉えた思想と人生観が語られる。伴走する若者の存在も、彼女自身の行き着くところも曖昧なままエンディングを迎える観念的な作品だ。(417/1000)

稀代の本屋 蔦屋重三郎

どうやらあのTSUTAYAは、創業者増田宗昭氏の祖父が営んでいた蔦屋と重三郎の蔦屋からとった屋号らしい。しかも再来年の大河ドラマで横浜流星が演じるそうだ。歌麿、写楽を陰と陽を代表する形で世に送り出した手腕。寛政の改革で松平定信に虐げられても挫けなかった本屋としての意地。巧み過ぎる表現力に読み進めるのに難渋するが読後感は爽やかだ。(416/1000)

武王の門 (上)(下)

南北朝時代というのは、後醍醐天皇、楠木正成、新田義貞、足利尊氏でほぼ語り尽くされていると考えるのは浅薄だとわかる。九州に後醍醐帝の子として一国を成そうと菊池武光とともに覇を唱えた懐良親王が立ち、領地に拠らない武士像や租税の仕組みを構想した。足利幕府の介入によって頓挫はするものの、その先進的な国家観がこの時代に生まれていたと想像した大作である。(415/1000)

さわらびの譜

これで20冊目か、この作者は。史実にもとづくわけでもないのに、まるでその時代に本当にあったかと思わせる筆力こそ歴史小説の醍醐味を知る者に与えられた力だろう。家伝の弓術を受け継いだ姉と妹が、藩の権謀術数の中で辛酸を舐めながらも健気に生き抜く姿が心地よい。(414/1000)

冬姫

蒲生氏郷というと、秀吉に酷使された手駒のひとつくらいにしか歴史観を持たなかったが、信長の娘「冬」の夫としての観点から辿ってみると氏郷とその妻が果たした役割の大きさに驚く。そういうところに史観を見出すこの作者はやはりただものではなかったということだろう。(413/1000)

北辰の門

火の鳥「鳳凰編」を読んだ人なら、橘諸兄や吉備真備は耳に馴染んだ名前だろうが、その二人を結びつける覇者藤原仲麻呂の栄光と挫折が描かれる。弓削一族の道鏡や孝謙天皇の放埒ぶりには眉を細めたくなるが、仲麻呂の専横ぶりの前には致し方あるまいと思わせる。その後の歴史の変遷も知りたくなる一冊だ。(412/1000)

命もいらず名もいらず (上)(下)

江戸城無血開城の立役者といえば勝海舟というのが定説のように言われるが、実は真の立役者は山岡鉄舟だったのにさほど名を残さない。『金を積んでもって子孫に遺す。子孫いまだ必ずしも守らず。書を積んでもって子孫に遺す。子孫いまだ必ずしも読まず。陰徳を冥々の中に積むにしかず。もって子孫長久の計となす。』善行は人知れず積むことが肝要だと家人に言い残して絶命した山岡の一生を辿れる珠玉の一冊だ。(411/1000)