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2月, 2024の投稿を表示しています

月のうらがわ

まるで山本周五郎か藤沢周平のような筆致で、江戸の街に暮らす庶民の哀愁や小さな幸せを描く。「月のうらがわ」とは何なのか、最後まで読者に疑問を抱かせながら展開する構成が憎い。運命という縦糸にどう横糸を綾して、人生を織り上げるのか。作者の問いかけに、己の読書生活の成果を省みる。(400/1000)

運転者 未来を変える過去からの使者

たまたま倅が職場で必要な代物をなくしたみたいだと細君から聞いた。始末書を書くのもいい薬だと思って納得したが、結局同僚が拾ってくれていたそうでことなきを得たのは、運が悪いのではなく貯めていた運を使わせてもらったということになる。そういう話がこの物語を構成していて、読むほどにじわーっと心が温まる名作だ。(399/1000)

ラウリ・クースクを探して

旧ソビエト支配下にあったエストニアに生まれたプログラミングの天才とその友人との邂逅と流転を描く。マイナンバーカードぐらいでまだ四の五の言ってるデジタル後進国の我が国からすれば、独立を果たしてデジタル・ネイティブ国家を目指したエストニアが羨ましい。日本にラウリ・クースクは探しても見つかるまい。(398/1000)

スクールガール

芥川賞の受賞作は順番待ちなので、同じ作家の書いた候補作の方を読んでみた。候補作となった表題の「スクールガール」は、芥川龍之介じゃないが主婦のぼんやりとした不安というか憂鬱がテーマだ。もう一作の「悪い音楽」は、女性音楽教師の音楽に対する向き合い方と教育との矛盾を鋭くえぐる。芥川賞を取るだけのことはある作家だ。(397/1000)

月ぞ流るる

赤染衛門こと朝児(あさこ)が養母の仇を追う頼賢を輔けて進む物語の中心に、藤原道長とその一族の愛憎が織りなす。「栄花物語」の作者がその赤染衛門であると最後に知ることになるのだが、史書と物語の価値観の違い、作者の物語に対する思いが著されていて現代版栄花物語とも言えるのだろう。(396/1000)

べんけい飛脚

読み出して前後不明な前提があったのは、前作「かんじき飛脚」を読んでいないからだと読了後の解説で知る。とはいえ、本作の構成は戯曲が紡がれる経緯と、実際の戯曲とで成り立っているところが面白い。終焉部が若干回りくどいのが難点か。(395/1000)

カズサビーチ

ペリー来航の8年前、アメリカの捕鯨船が無人島に漂着した日本人とさらに別の漂流する日本人等合わせて33名を救難した。鎖国政策を堅持する幕府がこの措置を謝して食糧等を無償提供するまでのドラマだ。この事件に関わった当事者達の英知が、その後の開国政策に活かされたなら、この国の形ももっと変わったものになったかもしれない。(394/1000)

君のクイズ

数ヶ月待ちの人気図書だったので、期待して借りて読んだが、さほど手応えはなかった。要はクイズを解くという行為の中に、解答することに目的を見出すか、それを利用するかという二人の解答者の違いを浮き上がらせただけだろう。なぜ順番待ちしてまで読むのかわからない。(393/1000)

赤ひげ診療譚

あまりにも人口に膾炙した古典的名作だとわかっていながら手に取る機会を持たなかった。ようやく読んでみてその味わいにしみじみ酔いしれる。江戸の庶民の暮らし、貧しい暮らしに喘ぐ人々の運命、人間とはいかに生くるべきかという問いかけに真正面から向き合える。怒りっぽい隣の年金生活者にも温かい眼差しが向けられる気がする。(392/1000)

遠い勝鬨

松平伊豆守信綱と言えば、天草の乱を鎮められなかった板倉重昌の代わりに現地へ出張って叛乱を鎮圧した老中として有名だが、その彼と彼が慈しんだ医家賀山健之丞が主人公だ。切支丹の母を持った健之丞の運命が壮絶だが、クライマックスにえっ!と思える展開はさすがこの作者ならではだろう。(391/1000)