余寒の雪 2月 19, 2025 初めて読む作家だったが、7篇の物語は圧巻の内容だった。ざわざわと結末を不必要に心配することもなく、ああこの物語は期待通りに進展するのだろうなと安心して読める。だからといって、展開は平凡でなく、心の琴線を震わせる筋書きに唸らされる。長編をぜひ手に取ってみたい作者だ。(479/1000) 続きを読む
いつかの朔日 2月 15, 2025 徳川家康の生涯を鳥居忠吉、同四郎、同元忠の3代の視点で描いた10章である。家康好きにはたまらぬ一冊だろう。清康、元忠と不運が続いた松平家を、家康をして天下人の地位にまで押し上げ支え続けた功臣一族の襷リレー。7日で落ちると言われた伏見城を、7月19日から8月1日まで持ち堪えた元忠の不屈の忠義がタイトルと重なる。(478/1000) 続きを読む
コード・ブッダ 2月 13, 2025 まあなんと難解なことだろう。2021年東京オリンピックを機に姿を消した勘定系コンピュータをブッダ・チャットボットとして、歴史上のブッダから始まって仏教の教義と変遷を網羅して、AIによる自動経典生成機能にまで思考を広げる。救いはあるのか、宇宙、存在、情報について思索の範囲は広大で10回は読まないと著者の意図は理解できないだろう。(477/1000) 続きを読む
羅城門に啼く 2月 08, 2025 同じ作者の作品が読みたくて手に取った一冊だが、内容は想像以上に重かった。平安京に悪党三昧を繰り返した男が、空也上人と出逢って変貌していくさまが克明に描かれる。人間とはかくも悲しい存在なのかと絶望したくなる展開を拒むように、得るのではなく与えるのだという真理が訴えかけてくる。(476/1000) 続きを読む
姥玉みっつ 2月 03, 2025 さすがは西條奈加だ。口のきけなくなった訳ありの少女を3人の婆さんが面倒を見る顛末を泣かせる筆致で描き尽くす。日々のさまざまが堰となって、流れゆくだけの時に楔を打つ。運とは築くものかもしれない。日々の積み重ねと、気の巡らせようで、少しづつ開ける運もある。などなど婆たちと同年齢になったからこそ胸に響く文脈が味わい深い。 (475/1000) 続きを読む