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11月, 2023の投稿を表示しています

お順 (上)(下)

勝海舟の妹の生涯を辿りながら、彼女に関わった5人の男たちを描く。海舟その人はもちろんだが、父の子吉、夫の佐久間象山、初恋の人島田虎之助、疫病神の村上俊五郎。男に女の本質は描けないと前記したが、女性作家が描いた男の世界は正鵠を得ていた。(376/1000)

幻夏

クライマックスを迎えるまでは、全体像が見えず楽しんで読める。いよいよ大団円となって、一気に結末へ導いてくれればスッキリするのに、エピローグがいたづらに長い。そこだけ残念な作品だ。(375/1000)

鉄の骨

この作者の銀行ものは荒唐無稽すぎて忌避したくなるので、建設業界の話ならと手に取った。談合という悪しき旧弊から脱せられない斯業界の仕組みを多少大袈裟かもしれないが、面白く読ませてくれる。それにしても男性作家が描く女性像というのはどうも女性を卑下しているようでいただけない。(374/1000)

芝居の面白さ、教えます 日本編

真山青果、宮沢賢治、菊池寛、三島由紀夫、安部公房の5人の戯曲作品をもとに考察した講演集だ。とりわけ国家や組織のわざとらしい善意が個人の自由を奪っていくという視点で三島や安部公房を読み解くくだりは我が意を得たりだ。イベント企画に嵌るこの頃故に、作者の芝居人としてのエンターテイメントに対する真摯な姿勢には学ぶべき点が多かった。(373/1000)

夏の陰

剣道に生きる警察官の父を銃で殺された息子と、その殺した男を虐待する父として持った息子とが長じて全日本選手権予選決勝で対戦する。殺害の裏に潜む事情が明かされないまま物語は進行するが、クライマックスを迎えてようやく真実に辿り着く。小編だが被害者と加害者の家族の心情を丹念に追究する佳作だ。(372/1000)

彼らは世界にはなればなれに立っている

前作が面白かったのでついつい手に取ってしまったが、まるで翻訳された外国小説の体だ。架空の街も登場人物にも実在感がない。こういう手法をとってみたくなるのも作家の性というものかもしれない。(371/1000)

楽園の犬

初めて手にした作家だが、その筆力、構成力に感嘆するばかりだ。戦時中のサイパンで期せずして海軍の諜報員とさせられた物語だが、四章を貫く人間存在への尊崇が読み手にこれでもかと伝わる。息子に宛てた最後の手紙があまりにもせつない。今年読んだ100冊の上位に入ること間違いなしだ。(370/1000)

天災ものがたり

全部で6つの天災にまつわるエピソードが綴られる。鎌倉期から江戸期、明治、昭和30年代を通じて日本人は自然とどう向き合ってきたのかが理解できる。とりわけ最後の「小学校教師」がいい。川端康成か宮沢賢治を彷彿とさせるような描写と文体に、この国に生まれてよかったと思えるだろう。(369/1000)

未明の砦

読み終わって作者の経歴を知って驚いた。あのドラマ「相棒」の脚本家だったとは。コロナ禍を潜り抜け、空前の円安を享受して最高益を叩き出す輸出産業。成長のエンジンも見出せないまま労働力を差し出すだけの若者たちへ、それでいいのかと呼びかけてくれているようだ。珠玉の600頁の大作である。(368/1000)