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投稿

スピノザ エチカ抄

エチカというのは「倫理学」のことのようだ。「知者は、自己と神(小生注:自然)と物とをなにがしかの必然によって意識し、在ることをけっしてやめず、心の本当の充たされた静止をいつでも所有する」死という精神と体の時間的限界に向き合う上でスピノザのこうした考察は難解だったが大変参考になった。(516/1000)
最近の投稿

対馬の海に沈む

巨大組織農協の末端JA対馬を舞台に繰り広げられた職員による不正を追い求めたドラマだ。欧米人は自己の基準を軸とする「罪の文化」に対し、日本人は周囲の目をひたすら気にして同調し、悪事にも加担する「恥の文化」だと喝破したベネディクトの『菊と刀』の一節を引用する。まさにこの国の組織は国も民間も、国民共々自己弁護と自己主張の塊になっている。(515/1000)

飛奴 夢裡庵先生捕物帳

最近過去の3作品を纏めた上下巻が出たそうだが、そのうちの一作だ。夢裡庵という岡っ引きの親分さんが難事件を解決していく。江戸の町の美しい風情をバックに6件の事件が紡がれるが、終盤は幕府の瓦解とともに主人公の運命も変遷する。機知に富んだやり取りや、登場人物に語らせる博覧強記に作者の造詣の深さを痛感する。(514/1000)

スピノザの診察室

医学部卒業の作者でなければ、ここまで詳しく書けないだろう。それだけでなく、哲学の分野にも通暁しているからこその作品だ。「理屈の複雑さは、思想の脆弱さの裏返しでしかない。突き詰めれば「生きる」とは、思索することではなく行動することなのである」と喝破するのは、スピノザの思想なのだろうか。スピノザの著作を手に取ってみたくなるほど、命について考えさせてくれる一冊だ。(513/1000)

一応の推定

映画を観て読みたくなった本だ。映画では描ききれなかった、あるいは映画で描かれていたシーンが原作ではどうなっているのか知りたくなる。当然かもしれないが、文字と映像では理解の仕方が異なって面白い。細部の違いはともかく、登場人物の心理や組織の仕組みなどがじっくり把握できる。(512/1000)

ベルリンは晴れているか

第二次世界大戦下のベルリンを舞台に、少女が尋ね人を探し出す行程が530頁の大部で詳細に描かれる。よくもこれほど、大戦下の異国の状況が綿密に辿られるものだと驚かされる。参考文献や映像の多さは群を抜いているだろう。最後に物語の結末が明らかとなったところに、この物語のエンタメ性が窺われて、それも好ましい。(511/1000)

藍を継ぐ海

全5篇。陶芸家、狼犬、長崎原爆の欠片、隕石、そして表題作のウミガメの話。どれもさすが今年の直木賞作品といえる珠玉の短篇ばかりだ。人というものは悲しい性を持った生き物だ。一方、決して希望を失ってはならないと悟らせてくれる。旅のお供にぜひ持参して読み返すのも格別だろう。(510/1000)