スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

ながい坂 (上)(下)

これが正しいという信念にとらわれると、目も耳もそのほうへ偏向し、「正しい」という固執のため逆に、判断がかたよってしまう。1,000頁を越えるこの本から何度も同様の警句を読み取りながら、相変わらず正義感に走ろうとする己を律しきれないのが歯がゆい。人間とは己の分を守ってその能力を遺憾なく果たしていきたいものだ。(494/1000)
最近の投稿

アイミタガイ

5月19日以来の読書だ。500冊に迫ってなんとなく冊数を追いかけることに疲れてきたのかもしれない。映画化された人気の作品だけに長い順番待ちをした挙句に手にとれた作品で、ストーリー性を追求したエンタメものかと想定していたが、いい意味で裏切られた。5つの小編がどこかでつながって人間の心の奥底をえぐる佳作であった。(493/1000)

刀と傘

さまざまなイベントが続いてゆっくり読書する暇もなかったが、漸く読み終えたのがこの一冊。明治初期、司法卿にまで昇り詰め、佐賀の乱で散った江藤新平と盟友鹿野師光を軸とした推理小説だ。5つの殺人事件を通して彼ら二人の関係がどう変化していくのか、草創期の明治政府がどう変遷していくのかがよく理解できる。(492/1000)

いのちの波止場

終末医療、緩和ケアに委ねられた患者5名、5通りの最期を看取る物語だ。看護師の立場、医師の立場、家族の感情、なによりも患者自身の死を前にしたさまざまな心の変化を読み取ることができる。この数年で彼岸へ旅立った両親の終末期のことが嫌が上にも思い出されて心が痛む。(491/1000)

路地裏のニ・二六

ニ・二六事件が引き起こされるまでの将校絡みの複数の事件を結びつける一憲兵の分析と行動を軸に物語は展開する。それぞれが別個の事件と思われたものが密接に結びついていく過程がスリル満点だ。皇道派と統制派の鬩ぎ合いと言ってしまえば簡単だが、当時の国情や人間のものの考え方はさほど単純ではない。人間にできることは高が知れている、とは蓋し名言だ。(490/1000)

光炎の人 (上)(下)

上下巻併せて約800頁に及ぶ大作だった。明治から昭和にかけて電気の開発普及に尽力した立志伝ものかと手に取ったが、豈図らんや技術に取り憑かれた男の非情で目を背けたくなる生き様だった。結末は軍部に利用されて非業の最期を遂げるのだが、一方向にのみ目が向きがちな己にとっても教訓となる作品だ。(489/1000)

雪夢往来

越後の村にあって、本業の傍ら40年もの間、山東京伝、曲亭馬琴等に出版を依頼し続けながら、「北越雪譜」を書き続けた鈴木牧之。馬琴の不遜さには呆れるが、彼に翻弄されながらも、粘り強く地道に努力し続ける牧之の姿は胸を打つ。何事につけすぐに結果を求めたがる現代において、いかにロングスパンで人生を捉えることが大切か教えてくれる。蛇足ながら前借り手が挟んだのか「猫」の栞が残されていたのが象徴的だった。(488/1000)