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8月, 2025の投稿を表示しています

デルタの羊

久しぶりに7冊読んだひと月だった。最近嵌まっている塩田武士の3作目だが、相変わらずの取材力に驚くばかりだ。アニメ業界の現在と未来を検証する視点は、門外界の自分にも理解しやすい。一見別々の物語が始まって、いったいこの後どうなるのかと心配したくなるが、全てが収斂していく手際は見事というほかない。(505/1000)

アンパンマンの遺書

遅ればせながら朝の連ドラ「あんぱん」に嵌って手に取った。高校時代に親しんだ「詩とメルヘン」があのサンリオの出版物だったことも初めて知った。65歳を過ぎ70の声を聞いてようやくアンパンマンが世に出て脚光を浴びた彼の人生を著者とともに振り返ることができる。自分もいよいよ4コマ目。「なんのために生まれて 何をして生きるのか わからないまま終わる そんなのはいやだ」よくわかる。 (504/1000)

盤上に散る

麻雀だけでなく将棋ファンでもある小生にとっては飽きさせない作品だ。関西人の巧みなユーモアも随所に散りばめられていてフッと微笑みたくなるのも嬉しい。タイトルに示されたほどには壮絶なドラマでないのも、なんだか作者に初めから何十手も読まれていて「詰めろ」に誘われた気がしてそれも爽快だ。(503/1000)

騙し絵の牙

映画を観てからの原作だったが、大泉洋を主人公に見据えての創作の方が、演じた作品より面白い。「手に職がない還暦前の男にとって、肩書はもはや臓器の一部だ」とか「思考を続ける人間には真贋を見極める目が備わっている」「男の恋愛は名前をつけて保存、女の恋愛は上書き保存」など警句が散りばめられているだけでなく、ネット社会に脅かされる既存の社会構造に鋭いメスを入れてくれる。(502/1000)

龍と謙信

まだまだ若い44歳の女流作家のようだ。最新作らしいが、我々年代にとって軍神ともいうべき上杉謙信をよくもまあここまで貶めてくれたものだと腹が立つ。なんでも謙信に実は正妻がいたらしいという新事実が、彼女にこんな空想を描かせたとしたら、なぜもっとその構想を温めて深い作品にしなかったのか惜しまれる。久しぶりに読むのが苦痛であった。(501/1000)

罪の声

ようやく5年半をかけて500冊に到達した。区切りの一冊は映画化された同書だが、映画とは細部が微妙に異なるだけでなく、文字から伝わる感動はまた別物だ。グリコ森永事件の真相を独自解釈した構想も壮大だが、なんといっても加害者側に組み込まれた子供たちの運命に焦点を当てた作者の視点が作品に普遍性を与えている。(500/1000)

竹沢先生という人

現代日本文学大系の36巻に野上弥生子とともに収められた長与善郎の作品。返却期限の関係で、岩波文庫に移って読み継いだ。大正期の文学、思想、哲学の思潮を背景に竹沢游先生と彼を慕う若者たちとの知的交流が描かれる。「幸福は徳の報酬ではなく、徳そのものである」という箴言が懐に落ちるまで読み進む難解さもまた愉しい。(499/1000)