花影の花 5月 31, 2024 あまりにも有名な赤穂浪士の討ち入りについて、内蔵助の妻りくの立場から彼女の嫁入りから死に至るまでを描く。夫と長男が貫く忠義を陰で支え続け、残された末子の息子の放埒に耐え続けた日々。これほど過酷な女の一生もかくありなんと物語に時を忘れて没入させられる。(427/1000) 続きを読む
きらん風月 5月 28, 2024 世の中の、人と多葉粉のよしあしは、煙となりて後にこそ知れ。と権力の中枢から退いたばかりの松平定信に至言を示した栗杖亭鬼卵。神も鬼も飛び出してくるかもしれぬ己の掌を、卵を割らぬようそっと包み込むようにして生きてきた鬼卵ならではの人生訓が語られる。老境を迎えた読者には響く言葉の宝庫だ。(426/1000) 続きを読む
佐渡絢爛 5月 23, 2024 佐渡金山のことを知る機会というのはほとんどない中で、元禄時代に遭遇した鉱脈枯渇問題をテーマにいかにも面白い物語を紡いでくれたものだ。登場人物の躍動感はもちろん、推理小説のような謎解きの部分もあって楽しんで読める一冊だ。ただちょっとエンディングが冗長にすぎるかもしれない。(425/1000) 続きを読む
エデュケーション 5月 20, 2024 育てるのではない「育む」のが教育だと言っていたのが亡父だった。エデュケイトという言葉も「(才能を)引き出す」という意味だと理解して社員研修の指針にしていたのは自分だ。カスハラなぞといって従業員を保護しすぎると、サービス業の質は低下する一方だろう。白馬の騎士気取りの経営者や社員は願い下げだ。(424/1000) 続きを読む
虚空遍歴 (上)(下) 5月 15, 2024 死ぬことは、その人間が生きていたという事実を証明することであり、その生涯を完成させるものだ。と主人公中藤仲也に語らせ、新しい芸道の道を創造させるためにさまざまな人間の喜怒哀楽を味合わせる作者のこの物語に対する執着の凄さを目の当たりに感じずにはいられなくなる。上下巻全700頁に及ぶ大作だ。(423/1000) 続きを読む
襷がけの二人 5月 09, 2024 数奇な運命で結び付けられた女性ふたり。主人と女中の立場が大戦後逆転するのだが、通じ合う心の触れ合いは変わらない。こういう小説もしみじみとして実にいいものである。(422/1000) 続きを読む
父がしたこと 5月 06, 2024 なんという本だ。父がしたことの事情は明かされないまま、しかし父のしたことの偉大さ、潔さが読者に伝わる。全編に人はどうあるべきかについて珠玉の至言がこれでもかと言うほど散りばめられている。「武士が護るべきは主君か、家族か」などと帯に記されているが、そんな安直なテーマでは決してない。実に重厚かつ深奥な名作である。(421/1000) 続きを読む
うまい日本酒をつくる人たち 5月 05, 2024 あのNo.6の新政、島根の誉池月、燗酒が旨い丹澤山、地元蓬莱泉、秋田日の丸醸造、佐渡ヶ島北雪、吉野の花巴、千葉県アフス、海と舟屋が迫る京都伊根満開、大信州と銘酒と蔵元のオンパレードだ。流行り物の磨きに拘る大吟醸などに惑わされぬ信念が頼もしい。飲まずには居られなくなるやばい本だ。(420/1000) 続きを読む
極楽征夷大将軍 5月 04, 2024 南北朝時代もしくは足利幕府の成立というのは、戦国時代や江戸時代に比べて意外と知られていないものだ。2段組500頁の大部を読み終えれば、戦国武将の来歴や源氏の棟梁の由来もよくわかる。尊氏の凡庸さと弟の直義、高師直の実像もその後の歴史でいかに歪められて伝わっていたのかがよくわかる。歴史とは不思議なものだ。(419/1000) 続きを読む