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10月, 2025の投稿を表示しています

飛奴 夢裡庵先生捕物帳

最近過去の3作品を纏めた上下巻が出たそうだが、そのうちの一作だ。夢裡庵という岡っ引きの親分さんが難事件を解決していく。江戸の町の美しい風情をバックに6件の事件が紡がれるが、終盤は幕府の瓦解とともに主人公の運命も変遷する。機知に富んだやり取りや、登場人物に語らせる博覧強記に作者の造詣の深さを痛感する。(514/1000)

スピノザの診察室

医学部卒業の作者でなければ、ここまで詳しく書けないだろう。それだけでなく、哲学の分野にも通暁しているからこその作品だ。「理屈の複雑さは、思想の脆弱さの裏返しでしかない。突き詰めれば「生きる」とは、思索することではなく行動することなのである」と喝破するのは、スピノザの思想なのだろうか。スピノザの著作を手に取ってみたくなるほど、命について考えさせてくれる一冊だ。(513/1000)

一応の推定

映画を観て読みたくなった本だ。映画では描ききれなかった、あるいは映画で描かれていたシーンが原作ではどうなっているのか知りたくなる。当然かもしれないが、文字と映像では理解の仕方が異なって面白い。細部の違いはともかく、登場人物の心理や組織の仕組みなどがじっくり把握できる。(512/1000)

ベルリンは晴れているか

第二次世界大戦下のベルリンを舞台に、少女が尋ね人を探し出す行程が530頁の大部で詳細に描かれる。よくもこれほど、大戦下の異国の状況が綿密に辿られるものだと驚かされる。参考文献や映像の多さは群を抜いているだろう。最後に物語の結末が明らかとなったところに、この物語のエンタメ性が窺われて、それも好ましい。(511/1000)

藍を継ぐ海

全5篇。陶芸家、狼犬、長崎原爆の欠片、隕石、そして表題作のウミガメの話。どれもさすが今年の直木賞作品といえる珠玉の短篇ばかりだ。人というものは悲しい性を持った生き物だ。一方、決して希望を失ってはならないと悟らせてくれる。旅のお供にぜひ持参して読み返すのも格別だろう。(510/1000)